秋田近代史研究会

秋田県の近現代史を考える歴史研究団体です。

史料紹介「農村青少年人口の構成分布に関する調査」

史料紹介「農村青少年人口の構成分布に関する調査」(秋田県職業課、1940年刊)
(『青少年人口の動態と労働事情に関する調査資料』2012年、クレス出版) 荒川肇


会報 194 号「史料探索の顛末」でふれた本調査は 1938(昭和 13)年7月県職業課実施の鹿角郡南秋田郡雄勝郡3郡全町村(ただし南秋田郡船川港町と雄勝郡院内町は調査不備のため除外)の 12 歳以上 25 歳未満全てを対象とした青少年動態調査である。
3郡を対象とした理由は鹿角郡は鉱山地帯、南秋田郡は漁村地帯、雄勝郡は米作農村地帯の代表的特質を有するからという。


対象町村の 1925(大正 14)年3月尋常小学校卒から 1938(昭和 13)年3月尋常小学校卒までの年齢層にあるもの全てを居村者、移入者、離村者を問わずに行った調査であり、総数は 94,000人近くに及び、対象町村人口に占める割合は 33 %に達する。


この調査により移入者については就職・婚姻の原因別、本籍地別、居村者については青年学校・青年団在籍者、職業別、学歴別、職歴回数別、将来の就職(転職)希望別、離村者については学歴別、職歴回数別、離村方面別、職業別、前借金額別、将来の定住・帰村希望別などのデータが示されている。


調査の特色をあげると、特徴のある3郡を対象としたことで地域的相違が浮き彫りになったこと。離村先について県外はもちろん郡内町村や県内他郡をも取り上げたことで
詳細な移動が判明したこと。職業分類が 59 分類に及び詳細であること。将来の希望という調査項目により青少年の進路意識がみえることなどである。


一つだけ内容に触れると「県外(北海道、外地、海外)離村」という表には3郡合計
県外離村者数 21,884 人(北海道 2,594 人、軍人 1,749 人を除くと 17,541 人)の内樺太 1,268人、満州国 1,039 人、朝鮮 380 人、支那 292 人、カムチャッカ 278 人、南アメリカ 57 人、台湾 22 人、内蒙古6人、南洋群島3人、露国1人、英領ボルネオ1人、英領インド1人となっている。農村不況対策として政府が奨励した南米移住と満蒙開拓移民の反映もあるが、予想以上に広範な青少年移動に驚かされる。


気になるのは調査目的である。「緒論」には、日中戦争軍需産業への激しい労働力移
動にともない、「農村に在つて家業を継ぐべき中堅青年層さへ駆り出される様な現状」がある。そのため「農村の青年が如何に在り、如何に流出するかを分析究明し」て「現在ある青少年労[働]力を、産業の重要性に応じて如何に配分するか」の「労働統制、労
働管理」が「重要な問題である」としている。「本調査の目的」として戦時下「青少年男女の職業生活を確立し」、「町村是」・「経済更生計画」・「小学校青年学校経営方針」作成のために「素材を提供せん」とあるが、これをはるかに超えた意図が読み取れる。調査1年前に日中戦争開始、3カ月前に国家総動員法公布されていることに留意したい。


調査結果がどのように利用されたか、また他県で同様な調査がなされたのか、労働力
の流出先である大都市側の調査はどうであったのかなど検討したい課題は多い。
なお本調査については、「一九三〇年代秋田県における産業動向と青少年の就業・移動」(『「教育デモグラフィー」の可能性とそこから読み取れるもの』科学研究費補助金・萌芽研究成果報告書、2000 年)が詳細な検討を行っているという。ぜひこの研究に触れたいものである。