秋田近代史研究会

秋田県の近現代史を考える歴史研究団体です。

妻沼町事件被害者・戸巻友次郎さんの墓か

戸巻友次郎さんの墓碑

歴史情報「検見川事件の被害者、横手町出身藤井金(国)蔵さんとは ?」 荒川肇(2023年10月11日、会報200号掲載)

今年は関東大震災 100 年ということでメディアがいろいろ取り上げている。大震災後の混乱と不安の中で、香川からの薬の行商団が朝鮮人と誤解され殺害された史実に基づく映画「福田村事件」も最近公開され話題になっている。秋田県人が被害者となった似たような事件が他にもあったことを皆さんはご存じだろうか。
先日、友人の宮城県在住歴史研究者から「『横手出身藤井さん』探し求め 20 年」という9月 28 日付河北新報記事が送られてきた。記事の概要は、100 年前の関東大震災直後に千葉市花見川区(旧検見川(けみがわ)町)で朝鮮人と間違われ3人が虐殺された検見川事件がおきた。

約 20 年にわたってこの事件を調査、当時の新聞記事や資料を収集して「関東大震災千葉県〈検見川事件〉」を自費出版した島袋さん(沖縄県出身、東京在住)が、犠牲者の1人「秋田県横手町出身の藤井さん」の手がかりを探している。事件に巻き込まれた3人は三重県沖縄県秋田県の男性で、当時の新聞資料などから三重県の男性は遺族や生家跡が判明した。沖縄県の男性は出身地と報じられた村は存在せず、住民基本台帳沖縄戦で焼失して調査ができない。秋田県の男性について当時のいくつかの新聞に、22 ~ 26 歳の「藤井金蔵」「藤井国蔵」と報じられている。島袋さんは今まで2回横手を訪問して調査したが、男性を確認できなかったという。なお島袋さんによると地元紙である秋田魁新報に事件当時の関係する記事は掲載されていないとのことであった。

同様に秋田県出身者が殺害された事件が埼玉県熊谷市妻沼(めぬま)でもおきた。足尾銅山から東京に歩いて向かう途中の秋田県の男性が住民から殺害されたのである(妻沼町事件)。東京日日新聞(1923 年 10 月 18 日付)によると、この男性は田根森村大字八柏 27(現横手市大雄)出身の製缶職工戸森友次郎 21 歳と自称したという(氏名を「戸差友治郎」とする史料もある)。検見川事件、妻沼町事件とも秋田弁の訛が朝鮮人と誤解された事に起因しているようである。
両事件の被害者である横手町と田根森村の男性の身元は、現在明らかになっていない。両事件とも秋田魁新報に記事は無いようである。20 年にもわたって検見川事件の被害者である横手出身の藤井さんを探し続けている島袋さんに敬意を表するとともに、この二人の被害者の身元を何とか明らかにしたいものと考えている。
なお当会会員塩田康之氏から検見川事件、妻沼町事件について情報提供を受けた。記して感謝したい。

妻沼(めぬま)町事件被害者の墓か関東大震災101年襲われた日本人(上)」朝日新聞2024年11月5日付記事(2024年12月25日、会報205号掲載)

会報200号(2023年10月11日)歴史情報で、関東大震災直後に千葉県旧検見川町で朝鮮人と間違われて横手町出身藤井さんが、また埼玉県旧妻沼(めぬま)町でも田根森村出身戸森(戸巻、戸差とする資料もある)友次郎さんが殺害されたが両事件とも被害者の身元は明らかになっていないと書きました。

最近、妻沼町事件被害者の身元にたどり着きそうな情報が出てきました。標記の記事(秋田版と埼玉版に掲載)は、記者が旧田根森村の共同墓地で被害者の可能性の高い墓を発見したとの内容でした。記者と連絡をとり発見の経緯を聞いた所、名字をもとに電話帳や住宅地図で地域を絞り込み、墓石を発見したとの事。先日私も雪の中、墓石を確認しました。墓石正面右に「戸巻友次郎」、右側面には関東大震災が起きた日付「大正十二年九月一日」。正面左には「戸巻キクノ」、左側面には「釋尼妙良」と「明治四十一年九月四日」とありました。記事には付近の複数の戸巻姓の住民に聞いたが二人の身元や建
立の経緯は分からないとのこと。当時の史料にある被害者の住所とこの墓の地域が違うなど疑問点はありますが、身元を明らかにする重要な情報です。

『かくされていた歴史―関東大震災と埼玉の朝鮮人虐殺事件―増補保存版』(日朝協会埼玉県連合会、1987年7月)

妻沼町事件も含む当時の新聞記事や史料・証言などを収録。埼玉県の教員らがまとめた資料集。申込は上記県連合会アドレス(bikke61eiki@yahoo.co.jp)へ。本到着後、代金は本代3,000円+レターパック代430円を郵振で。


「戦時労務動員体制下の「別天地」―在日朝鮮人朴麟植氏の証言を辿って」戸塚秀夫(『大原社会問題研究所雑誌』No638/2011年12月)

湯沢市秋ノ宮温泉郷湯の又温泉に戦時労務動員体制の網から逃れた朝鮮人たちが飯場を作り、軍需用のブナ材搬出のための道路建設工事に従事。そこでは官憲の目をかわして朝鮮人たちが自主的に管理する労働現場が存在し、自立的な「別天地」が形成されたという。従来の戦時動員体制を理解していた私にとっては衝撃的な内容でした。ブナ材は飛行機プロペラに加工され、加工会社を著者は曲木家具で有名な湯沢の秋田土木(秋田木工の誤植か)株式会社と想定している。しかしこれは東洋最大といわれ能代に本社があった秋田木材株式会社(通称秋木)のことと思われる。能代市の井坂記念館にはブナの積層材製の木製プロペラが展示されている。


『鬼神の檻』西式豊/ハヤカワ文庫(2024年8月)
大仙市アーカイブズ所蔵資料をもとに執筆した小説。西仙北の強首地区が作品の舞台である御荷守村のモチーフになっている(「大仙市アーカイブズニューズレタおにもりー」22号)。三世代の謎が絡み合う伝奇ホラーミステリです。